第13回 印刷を知ってこそ、グラフィックデザイナー。

何回かに分けて、書籍「How to Design いちばん面白いデザインの教科書」の各章を紹介してきました。今回はメインの章立てとしては一番最後の「印刷」の章です。

グラフィックデザインの技術は主に印刷物のデザインを軸に発展してきました。以前は印刷現場との綿密なコミュニケーションが無ければ、印刷物を作ることは不可能と言ってもよい時代がありました。今では、DTPで緻密な設定を含んだ、いわゆる「完全入稿データ」を作ることができるようになったので、ネット印刷会社などを介せば、メール一通で入稿し、以後は何も伝えずとも印刷物が仕上がるのも、不思議ではない時代になりました。

こんな時代に印刷現場の技術はデザイナーにとって無用な知識なのでしょうか? いいえ、僕は誰でも気軽に印刷技術を活用できるようになった今だからこそ、プロフェッショナルという立場で、デザイナーは印刷技術のことを知っておく必要があると考えています。

一つ目の理由が、「品質の向上のため」です。デジタルデータだから、だれが作っても同じものが仕上がると思っていませんか? それは大きな間違いです。デジタルデータだからこそ、そのデータを作る人によってクオリティーの差が大きく出てしまうのです。これは、今の印刷現場技術の弱体化という悲しい現実とセットになっていることもあるのですが、今、思っている以上にデザイナーのデータはアテにされています。CMYK印刷でいうと、一つ一つの網点の数値が如実に印刷結果となって跳ね返ってきます。

もう一つの理由が、「デザインプロセスのコミュニケーション」のためです。先に述べた弱体化は悪いスパイラルを生みます。「色が悪いのは印刷のせいで、自分のせいではない。」「色が悪いのはデザイナーがろくなデータを作らないからだ。」というお互いの不信や意識の低下がその種になっています。僕はデザイナーは印刷現場の技術を知り、そこに敬意を持ち、印刷現場は、逆にデザインという技術について少しずつでも勉強していく必要があると思っています。デザインの成果物は一人で生み出すものではありません。そのプロセスにおいて、多くの人のコミュニケーションの連鎖によって生まれているのです。

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「印刷機」「網点」「線数と解像度」「用紙」「入稿データ」「色校正」「インク」「製本」「加工」と、基本的な印刷に必要な知識を一通り網羅しています。

この章では、グラフィックデザイナーがより印刷現場に歩み寄るために、必要最低限の知識を網羅して解説しています。この知識は、現場と仲良くするための知識でもあり、現場と「良いケンカ」をするための武器でもあります。版の性質、印刷の特性、用紙の判型などを知っていくと、大げさではなくて、デザインそのものが大きく変わることがあるのです。ここに書かれている知識を持って、どうぞ新人デザイナーさんは印刷現場の大御所に挑んでいただきたいと思っています(そこで反撃されることもあるかもしれませんが、「こいつはちゃんと勉強してきている」と一目置かれることでしょう)。

「印刷」の章では、広域的な印刷指南の本よりも、より現在のオフセット印刷/CTP製版の現場の技術を意識して書きました。それは現場からの声をまとめた、というこの本のうたい文句と通じるところでもありますし、僕自身がオフセット印刷というものがすごく好きだからというのもあります。

印刷技術のカリスマ的なスター=力強い活版印刷やシルクスクリーン印刷なんかも魅力的ですが、オフセット印刷の持つ皮膜の薄い、透明性のあるインクの風合いや、工業製品らしい精緻な表現は、近くにあり過ぎて意外と気づかれない魅力なのかもしれません(J-WALKの「何も言えなくて…夏」的な)。