第16回 絵が上手じゃないとデザイナーになれないの?(前編)

気づけばもう16回目の更新ですね。今回のテーマはグラフィックデザイナーのスキルを形作っている能力についての話をしたいと思います。

デザイン職に就いている、あるいは志している人の多くが、子供の頃から絵を描くのが好きで、美術大学や美術系の専門学校に就学した人だろうと思います。グラフィックデザイナーという職業は子供の頃は理解することが難しいので、もともとはイラストレーターや漫画家、ファッションデザイナーになりたかった人も多いのではないでしょうか。

僕は美術大学を出ていませんので、そういう意味ではコンプレックスの固まりです(笑)。(大学では社会心理学を学んでいましたが、これが自分のアイデンティティー形成にすごく役立ったと思っています。それはまた別の機会に。)子供の頃から絵を描いたりするのは好きでしたが、絵を描くという分野で専門的に勉強したことは殆どありません。また、恐ろしく不器用なもので、細かい作業とかすごく苦手です。心の底からMacがあってよかったなーと思っている口の人間です。

デザイナーに必要なスキルって何だろう?と考えたことがありまして、多様なスキルを整理していくと、5つの力に集約されるのではないか!とある日突然ピンと来まして、「How to Design いちばん面白いデザインの教科書」ではそれをコラムとして冒頭に書いています。

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5つの力を分析したレーダーチャートです。僕の周りのクリエイターさんを分析してみました。

1. 発想力

この5つの力、まず最初は「発想力」です。広告などでびっくりするようなアイデアを目にしたことがあると思います。この斬新だったり的確であったりするアイデアを思いつく力を「発想力」と名付けました。これを天賦の才能のように思っている人もいらっしゃるかと思いますが、大半は訓練によってスキルアップ可能な力だと思っています。

よく言われるのがアイデアはゼロから生まれるものではなくて、ある概念とある概念をくっつけて生まれる、という方法。俳句のテクニックで「二物衝突」というのがあります。2つの全く異なる言葉をくっけることで、斬新な表現を生み出す技法。デザインにおいてもこのような二物衝突の発想で生まれたものがたくさんあります。
あるいは「水平思考」という考え方。これはものごとを深く分析して掘り下げる「垂直思考」に対して名付けられた考えですが、一度ものごとを俯瞰して、全く違う観点に着目していく考え方の総称です。
このように発想力は経験と学習によって、鍛えることができます。

2. 造形力

次の力は「造形力」。これは発想したものをきちんと表現として作り出せる力のことです。言ってしまえば、絵の上手い下手や、手先の器用さもここに含まれると思います。また、現在ですと、コンピュータを使った表現を自在にできる、デジタルスキルもここに含まれるでしょう。「造形力」はデザイナーにとってとても重要な力の一つです。造形力に突出したデザイナーは、アーティスト気質で、最後の最後まで自分で手を動かさないと気がすまない職人的タイプも多いと思います。

デザイナーとしてやっていくのであれば、ある程度の「造形力」は欠かせないと思います。特に仕事をし始めの頃は、上からのディレクションを受けて、自分が手を動かす機会は多いはずです。しかし造形力だけがデザイナーとしての力の全てではありません。

3. 美的判断力

3番目は「美的判断力」。自分が手を動かしていないものに対して、適正なジャッジメントができる能力です。チーフデザイナーやアートディレクターには勿論必要ですが、デザイナーにとっても、写真を選ぶ、書体を選ぶ、様々な判断を求められる場面がたくさんあります。デザイナーから出て来た多数の案をジャッジしながら、ふるいにかけていくプロセスで制作を進めるアートディレクターもいらっしゃいます。こういう実例からも「美的判断力」はクリエイションの中核の力であることがよく分かります。

では、続いて…、と思ったんですが、長くなりそうなので、続きは「後編」のお楽しみっ!てことにしておきますね。