第17回 絵が上手じゃないとデザイナーになれないの?(後編)

前回途中で終わってしまったので、今回もデザイナーを形づくる「5つの力」についてです。。

4. 情報力

4番目は「情報力」。昨今、無数のデータがインターネットやコンピュータ上に転がっており、その中から必要なものを選びとり、編集する能力(いわゆる「リテラシー」と呼ばれる力)がより強く求められるようになりました。別の言い方をするとプレーンな「データ」を有用性のある「インフォメーション」として変換構築する力。

また、インターネットでは見つからないような情報を足で稼ぎ、自分の資産として蓄える人も「情報力が高い」状態にあるといえます。海外の書店を回ってマニアックな写真集や古いファッション誌を収集し、デザインのソースとして活用しているアートディレクターがいます。情報力は経験、学習そのものが力に変換されるわけで、そういう意味で、ほぼ後天的な力であるといえるでしょう。

情報力は細かく分けると「収集力、編集力、応用力」の3つで構成されると思います。その中でも今特に多く求められるのは編集力だと思います。Webサイトを作る場面、多メディアに渡る表現計画を練る場合など、編集力を発揮させる場面が現代社会においては、とても増えています。

5. コミュニケーション力

最後はコミュニケーション力です。これは定義すると「情報を適切に交換する力」です。デザインの仕事をする際は、まずクライアントから要望や問題点を聞き出すことから始まる場合が多いでしょう。制作の第一時点からコミュニケーション力が求められるのです。そして、アイデアをプレゼンテーションする場面、フォトグラファーやイラストレーターに適性に発注、ディレクションする場面、印刷セクションやコーダーに正しく「入稿」する場面などなど、伝達することの大切さが分かります。

ビジュアルコミュニケーションという言葉がありますが、表現物がもつ視覚的なコミュニケーションを作るのがデザイナーの仕事です。そういった表現の仕組みを考える上でもコミュニケーション力の必要性はありますが、実は「デザインプロセスにおけるコミュニケーション」の方が制作においてはずっと重要なのかもしれません。(自分の大学でのゼミナールのテーマがこの「デザインプロセスのコミュニケーション」です。)

クライアントに同じ制作物を提案するときでも、そのコミュニケーションの方法で評価が良くも悪くも変わってしまうのが恐ろしいところです…。僕がメールベースでの提案を嫌うのも、このディスコミュニケーションの落とし穴がたくさん潜んでいるからです。

長々と説明してきましたが、これら5つの力がデザイナーのスキルを構成していると思っています。ベテランのデザイナーさんは5つとも優れているでしょうし、新人さんや学生さんはどれも自信ない…、と思われるかもしれません。しかしここで注目したいのは、それぞれの絶対的な能力の大きさではなく、個人個人に当てて見たときの「相対的なバランス」なのです。

社会での物作りは、けして一人の力のみで成されるものではありません。様々な職域の、多くの専門家が結集して、良いものが生み出されます。自分がどういう部分に強みがあってどういう部分が弱点なのかを、冷静に分析しておくことは悪くないことだと思います。お互いの強みを活かしあって、弱点を補いあうことに、コラボレーションの有用性があります。

それから、「絵が得意ではない…、不器用だから…」デザイナーにはなれないと思い込んでいる人に、他の部分を強化することでそこを補えないかと一度考えてみて欲しいのです。もしかすると新しいタイプのデザイナーになれるかもしれません。絵ではなく、Webコードのスクリプトを絵の具のように使ってびっくりするような表現を生み出すクリエイターも増えてきました。表現の幅は今後ますます広がっていき、これまでクリエイションにおいて常識とされていたことも変わっていくことでしょう。

余談ですが、ある学生が「デッサンを続けて、器用で絵が上手くなりたい」と言ってました。まあ確かに器用になれるかもしれませんが、本質は違いますよね。デッサンの本質は「対象をきちんと把握して、咀嚼する能力」にあります。ある行為をすることが、どのような力の加点になるのか。そのようなことを体得していくことも大切だと思います。気分はRPGやシミュレーションゲームにありがちな、各人に能力値を振り分けていくシステムのような。

これからは、決まった何かの「○○道(どう)」がありそこに入り込んで修行するだけの時代ではなく、自分だけの能力のカタチをカスタマイズしてそれぞれ磨いていく時代だと思っています。そういう意味でこの「How to Design いちばん面白いデザインの教科書」を得意なこと、興味あることを発見する足がかりにも使ってもらいたいなと思っています。