第2回 言葉にしたい。

前回の続きです。
「デザイナーがちゃんと使えるMacの本を書きたい」と言っておきながら、いざ書き始めるとどうしても、リファレンス的なフォーマットの呪縛から逃れられない…。そんな苦悩をかかえていましたら、編集のゴトケンさんが「カイシさんが思うMacの使い方って、Macから入ってるんじゃなくて、まず、現場のリアルな状況や考え方があるんじゃないですか?それをそのまま伝えてMacに繋げていったほうがよっぽど面白いですよ。」と。

そこで以前より思っていたキーワードとパシッ!とつながったんです。
それは「言語化」。

経験ある方も多いと思いますが、グラフィックデザインという業界を人に説明したりすると、どうしても「アート」や「感性」の範疇と誤解されるんです。ものすごく品質の高いデザインはアートの領域と大差ないと思うこともありますし、そういう要素があることは否定しませんが、僕はグラフィックデザインの根本は情報を編集し、再構築する知的生産業だと思っています。

また、もう一つ言われることは「職人」「道」のようなもの(これはある意味で正しいのですが)。この世界では仕事は師匠の背中を見て覚える、盗むもの。他の業態のようにマニュアルが用意されていて教育制度なんてのは、あまり聞いたことがないでしょう。

でも、僕個人の思いとしては、この業界の技法やプロセスがもっと言語化されてもいいなと思ってたんです。

「現場によりけりでしょう、そんなもの。」と言われたりもします。もちろん専門性に特化した部分、ハイレベルな部分は、それぞれの現場や人でしか達成できないと思います。ではなくて、言語化したいのはその前の「共通した領域」のことなのです。今の現場で前提や基本とされるデジタルスキルを含めた知識や理論。

「言語化」と並んでもう一つ大きなコンセプトがあります。
それは「頭と手を繋ぐ」ということ。

黎明期からグラフィックデザインを支えて来たデザインの巨人達、彼ら偉大な先達の貢献により、デザインは大きくその裾野を広げました。そして、立派な職能として社会に独り立ちするようになりました。僕も先達が残してくれたデザイン哲学を書籍などを通じて出会い、深い感銘を受けてきました。
裾野が広がったことに加え、デジタル技術の普及によって、Illustrator、Photoshop、InDesignなど、誰でもデザインのアプリケーションが扱えるようになりました。書店に行くとアプリケーションのリファレンス本や、TIPS本がたくさん並んでいます。

書店のデザインコーナーはわりと両極だったりするわけです。「哲学か?アプリか?」
デザインの業界に入っていきなり頭だけの仕事をやれる人は少ないと思います。ほとんどは手を動かさないといけない立場にあるはずです。哲学には現場に直結するリアリティーが薄いですし、アプリの操作説明だけからは、裏の考え方を学び取ることは難しいでしょう。

今は哲学もアプリもどちらも大事なのです。
デザインに必要な基礎的な考え方、そしてそれにリンクしたMacの操作。ここをスムーズに繋いでくれる本はないものだろうか?ということを思っていました。

ゴトケンさんはこう提案してくれました。「《形》《色》《写真》《文字》《レイアウト》《印刷》の6章に絞って、現場の考え方、現場の手の動かし方を繋げながら書いていく、しかも、そこに通底する大事な考え方があって、それが今のグラフィックデザインという職能の持つ本質に触れていたら最高じゃないですか?」
それを聞いて「これなら自分に書けそう、というかこんな本、欲しかった!」と一気にワクワクした気分になったのでした(けして、そこからスラスラ書けた、という意味ではありませんが)。

なぜ書けそうと思ったかというと、私はものごとを言語化することがとても好きで、今代表をしているデザイン会社「ルームコンポジット」でも、ディレクションや教育は「ほぼ、言葉を用いて行ってきた(見て覚えろじゃなくて)」という自負があったからです。

しかし、これは(おおげさですが)一つの企業秘密を暴露することの覚悟でもありました。
でも、やっぱり伝えたい、「誰でも分かる言葉」を伴って、という思いは強く…。
そして、ようやく2年かけてそんな本をお届けできることになったのです。

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コミュニケーションはおしなべてキャッチボールが大事、ということで弊社にはグローブとボールが常備されております。