第22回 すべてを、包む。

こんにちは。章順に紹介している書籍「デザインのプロセス 7人の気鋭デザイナーに学ぶ仕事のやり方、考え方」、今回は第3章「パッケージデザイン」について。

グラフィックデザインの領域は非常に多くの分野へ広がっていますが、中でも特
に注目が集まっているのが、このパッケージデザインだと思います。特に、食品分野のパッケージは、商品そのものの売り上げを大きく左右する、分水嶺的な存在と言われています。

パッケージデザインが働く機能を3つに分けてみましょう。短期、中期、長期、3つの時間軸です。

パッケージデザインが短期的に機能するのは、まずお店でお客さんが手にとる瞬間です。これをマーケティング用語で「購買地点(Point Of Purchase)効果」といいます。店頭で展開される広告を「POP」というのはここからです。消費者は(特に食品について)浮気性です。同じ銘柄を買い続けるものもありますが、お菓子やインスタント食品など、「今日はこれを買ってみようかな」と常に新しく、新鮮なものに目がいきがちです。短期的戦略では、目立つ目立たないなどといった、瞬時の視覚的効果、とりわけ、他に並んでいる商品と「いかに違うか」という差別化が重要です。

次に、中期的な軸を見ます。購買後のコミュニケーション効果全般、そのパッケージを持ち帰って自宅に置いたり、人にあげたりするときに働く機能。CDジャケットなどを思い浮かべれば分かりやすいかもしれません。お店でどれだけ目立ったとしても、そのCDを家に置いておきたくない、隠しておきたいと消費者が感じれば、デザインという評価軸で、中期的にはうまく機能しないパッケージといえます。また、贈答品として喜ばれるパッケージも、この中期的な観点について、よく練られています。

これら重要度の配分は、商品によって大きく変わってきます。例えば、化粧品パッケージなどは、短期と中期のほどよいバランスがとても重要です。スナック菓子は中期軸については、ほとんど気にする必要はないでしょう。逆に通信販売でしか売らないようなコレクターズアイテムは、短期軸(POP)は一切気にする必要がない、というわけですね(※ネット上でいかに品質を訴求するか、という点においてはまさに今時のPOPかもしれませんが)。

最後は長期的な軸です。長く続いているメーカーや商品には必ずそれらしい顔つき、というものが存在します。イギリスのロックバンドOasisのCDジャケットは、毎回違う写真ですが、ロゴや写真の雰囲気を見ただけで「これは間違いなくOasisのジャケットだ」と瞬時に理解できるのではないでしょうか。老舗の和菓子メーカーがコストが減らせるからといって、安っぽい包装紙を、けして採用しない理由も容易に理解できるでしょう。パッケージは、時間を重ねることで、人々の記憶に残り、ブランドそのものを構成する大切な要素になるのです。

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3つの時間軸をどのようにデザイナーが考えているかを気にして、パッケージの章を読んでみると、ものすごく!面白いですよ

今回、パッケージデザインの章を、以前より素晴らしいパッケージデザインをたびたび目にしていた、増永明子さんにお願いしました。大阪を拠点に東京や他地域の仕事も幅広くこなされている増永さん、今回は京都の老舗のお茶屋さんのパッケージデザインのリニューアル案件です。
僕の視点ですが、増永さんの個性を一言でいえば、「マクロ的な視点とミクロ的な視点を自在に往復しながら考えられるデザイナー」です。マクロというのは先ほど述べたブランディング的な観点のことです。そのメーカーがどのような道へ進んでいくか、その道標としてのパッケージ。ミクロは、先ほどの差別化の話です。他の店舗と違うものを売っている、というはっきりした主張をパッケージで演出しています。

なぜ、今になってパッケージが注目されているのか、僕はある仮説を立てています。それは「従来の広告媒体の力が弱体化したため、パッケージ媒体に潜在していた広告的機能が補完するようになった」からです。
スマホ歩きで駅貼りポスターは無視されても、CMスキップ録画で最近放送されているTVCFを全然知らない人でも、買い物のとき、店頭でパッケージを見ない、ということはありません。手に触れられるリアルな立場で、ある一定時間消費者との接触がある、視覚メディア、それがパッケージです。

「パッケージとは、消費者の最も近い位置で機能する広告である。」増永さんの記事を読むと、そんな印象を強く持ちました。増永さんはパッケージ作りを通じて、お茶屋さんの未来の姿を指し示します。実に様々なパートナーと協業しながら、一つのパッケージ、そしてその向こうにあるブランドを作り上げていきます。

このブログ記事だけではきっと伝わりきれないので、ぜひ本書のご一読を(笑)お願いいたします。マクロとミクロでいえば、ロゴや筆文字へのディティールのこだわり、素晴らしいです。視点の急上昇と急降下にクラクラくる章ができあがりました。