第32回 コンテクストでつくる本(後編)。

前々回に引き続き、この本がコンテクストでつくっているという話を「造本」の観点で話したいと思います。

間が空いたので、もう一度整理しておきます。コンテンツとは中身、コンテクストとは文脈のことです。一つの情報を受け取るのにも、どんな情報を受け取るかということはもちろん大切なんですが、その情報の受け取り方(情報の出し方や、受け取る側の状況、受け取り方)なども、ほんとうはどんな情報かという中身と同じくらい大切なのです。「たのしごとデザイン論」では、それらをひっくるめて、「コンテクスト(文脈)」と呼んでいます。

これを本で置き換えてみると、書かれている文章そのものや図版の内容は「コンテンツ」です。そして、それを伝えるための本のカタチ、2つに分けてみると、どんな書体でどのような文字の大きさで書かれているかなどの「エディトリアルデザインによるコンテクスト」、どんな紙でどんな装丁仕様で作られているかなどの「ブックデザイン(装丁)によるコンテクスト」があり、この2つが強く結びついて、本の中身をお届けしているのです。

この本の特徴は本文ページをぱっとめくると一目でわかります。それは「文字が大きいこと」。とにかく多くの人に「文字が大きい!」と思ってもらいたかったのです。文字が大きいことで、この本は堂々とカジュアルに話しかけているように見えますし、何より、1ページに書かれている文字が少ないため、すいすいとページをめくることができます。

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文字がでかい!

また、この本の本文ページは嵩高(かさだか)紙という種類の紙を使って印刷しています。嵩高紙とは紙の繊維の密度を低くして、中に空気を多く含ませ、1ページを軽く厚くした用紙です。ちょうど自著「HOW TO DESIGN いちばん面白いデザインの教科書」の印刷の章に、嵩高紙の断面の顕微鏡写真がありましたので引用します。

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左がコート紙の断面、右が嵩高紙の断面。繊維の密度が低く、軽くなっている(「HOW TO DESIGN いちばん面白いデザインの教科書」より引用)

つまり、少ないページ数でもある程度の厚みがあり、そして持ち運ぶ際は、厚さの割に軽いんですよね。

「なぜわざわざ厚くするの?」と思われるかもしれません。嵩高紙のページを軽快にめくる体験をしてもらいたいというのもありますが、何より(普段本をそんなに読まないのに)「こんな厚い本を読めた!」という快感を味わうためです。

そう、この本は、普段デザインの理論書や哲学書を読まない方にでも、手にとってもらい、最後まで読み切るという達成感、読後感を感じてもらいたかったのです。このように造本設計というのは、読み手の体験を作る作業、まさに「コンテクストをつくる作業」なのです。

忘れてはいけないのは、デザインです。僕はアートディレクターという仕事をしているので、本のデザインも職域の範疇ですが、あえて今回は他の方にデザインをお願いし、本の客観性を担保しました。これは編集担当のゴトケンさんのアドバイスによるものでしたが、結果的に大成功だったと思います。

デザインをお願いしたのはソーダデザインのタキ加奈子さんと一柳萌さん。最初につたえた「とっつきやすくて、チャーミングに学べる本にしてほしい」という与件を見事に解決してくれる、素晴らしい装丁とデザインでした。そして、本文をさらにゆるくするイラストを描いた、弊社デザイナー原田さんの功績も素晴らしいと思いました。感謝感謝です。

デザインは、クライアントが伝えたいメッセージなどを、わかりやすい形にして、受けての体験として伝えるという役を担っています。これはデザイン成果物(印刷物やWEBなど)というコンテクストを作っているようで、その奥にある体験やストーリーという「コンテクスト」をも作っているのです。

コンテンツを売っているようで、実際はコンテクストも売っているという点では、まさにこの一冊の本がそれをわかりやすく照らしてくれているのではないでしょうか?